お茶屋が運営する日本茶専門店「茶楽(さらく)かぐや」 自分で淹れる体験型のカフェで、お茶を身近に感じて楽しんでほしい!

100年以上続く老舗製茶会社・堀川製茶では、お茶の良さや楽しさ、そして文化や伝統を伝えるために、さまざまな試みを行っています。その一つが日本茶専門店「茶楽かぐや」です。匠の技術を活かした体験型の日本茶カフェは、新たな気づきが得られる場所として大きな話題となっています。そこで今回は、堀川製茶の堀川與一郎社長に「茶楽かぐや」設立の経緯や、お茶への思いなどについてお話を伺いました。

お茶を普及していきたいと思い、カフェを併設した「茶楽かぐや」をオープン

━━日本茶専門店「茶楽かぐや」を始めようと思ったきっかけを教えてください。

堀川 私が家業を手伝うようになった頃は、スーパーや小売店への卸売りがメインだったのですが、バイヤーさんと価格などの交渉をする中で、この先商売をしていくことに対してとても危機感を感じていました。
そんな時、地元・福井県の高校から依頼があってお茶の講義に行ったんです。生徒さんにお茶を飲んでいるか聞いてみたところ、冷蔵庫に入っているペットボトルを飲んでいると言われて…。急須で淹れたお茶を飲む機会が減っていると、さらに危機感が強まりました。
これは今後のことを考えると何かしないといけないと思った時に、お茶の普及をしていくために場所も道具も提供する体験型のお茶のお店を作ろうと思い、平成20年に体験型スタイルの日本茶カフェを併設した日本茶専門店「茶楽かぐや」をオープンしました。

━━「茶楽かぐや」のコンセプトとして、実際に触れてもらって日本茶の良さや伝統を伝えていくことが大事ということですね。

堀川 そうですね。まずは、急須など道具に触れてもらうことです。ですから、お店では定員が淹れたお茶を提供するのではなく、急須と湯呑をお渡しして、お客様自身でお茶を淹れて飲んでいただきます。私が淹れたお茶と、お客様が淹れたお茶では、常にお茶に触れている私の方が美味しく淹れることができます。ただ体験して頂いて、いろいろな気付きを得てほしいんですよ。実際、お客様から、「1回目と2回目ではお茶の味が違う」「同じお茶なのに友達のとは違う」といったことを言われると小さくガッツポーズしています(笑)。

━━お客様のターゲットとしては、どのような層を考えていたのですか?

堀川 子育てが落ち着いた方や子供の手が離れた50代ぐらいの女性を考えていました。そういう方たちが自分の子供と一緒に来てくださるのが理想でした。実際、ファミリーやカップルなど幅広い層の方が来てくださっています。意外に男性の方にも響いていて、常連になって頂いたり、道具一式をご購入される方もいらっしゃいます。

━━「茶楽(さらく)かぐや」の名前の由来・思いを教えてください。

堀川 お店をデザインする時にシンボル的なものが必要だなと思いました。私は裏千家という流派で茶道をしているのですが、長年していく中で、お茶とお月さまはとても結びつきが強いなと思うようになりました。お茶は中国から入ってきているものですが、古代中国では陰(月)と陽(太陽)の考え方が生活面などで応用されていました。陽は明るい、陰は暗い・質素といった部類の考え方があり、千利休が完成されたお茶は陰の方としてよく使われます。
そういうバックボーンもありながら、私は子供ながらに月を眺めるのが好きだったこともあり、「月」を一つの核としてお店を作りたいと思いました。その中で、「月=かぐや姫」という発想から「かぐや」を使いたいと思いました。ただ「かぐや」だけだと、家具屋さんと間違われてしまうのが嫌だったので、「茶を楽しむ=茶楽(さらく)」という漢字を付けて、「茶楽(さらく)かぐや」という名前にしました。

福井県で唯一、石臼で引き立ての抹茶を楽しめる

━━「茶楽かぐや」で提供しているお茶の特徴を教えてください。

堀川 緑茶という大きなカテゴリーの中でいくつか種類があるのですが、一つは越前に昔から残っている大豆とお茶をブレンドしたお茶です。あとは緑茶の中にも、玉露、煎茶など、いろいろカテゴリーがあるので、それをきちんと分けて提供しています。味の特徴でいうと、最近は濃いめが主流になってきているので、なるべく味がはっきり分かるものをメニューとして提供しています。

━━「茶楽かぐや」では、石臼製法で抹茶を提供されていますが、そこも特徴の一つですよね。

堀川 京都などのお茶屋さんでは石臼で抹茶を挽いているころはありますが、地方では少数の店舗しかありません。当店では挽き立ての抹茶で飲んでもらいたいとの思いから、店内にある石臼で挽いた抹茶を使って提供しています。コーヒーも焙煎したてと、時間が経ったものでは風味や香りが違うのと同じように、挽き立ての抹茶は口に含んで鼻に抜ける時の香りが全然違います。福井県で石臼の挽き立ての抹茶が楽しめるのは当店だけですので、ぜひ一度飲んでいただきたいですね。

━━お茶と一緒に提供する甘味にもこだわったと思いますが、メニューを決める上で大切にされたことはありますか?

堀川 私たちが提供しているのは、「お茶が主役になる甘味」です。お茶は和のものと相性がいいので、あんみつを主体にしようと思いました。最初はあんこも寒天も業務スーパーで売っているものを盛り付ければ何とかなるという安易な考えでした。ところがいざやってみると、お茶の特徴が消えて味が死んでしまったんです。これではお茶の良さや美味しさを知ってもらうという本来の目的が失われてしまうので、お茶が主役になる美味しい甘味を自分で作ろうと思いました。
ただ甘味に関しては素人だったので本当に大変でした。お茶の味を引き立たせるために、小豆や砂糖の種類や分量、水分量、小豆を炊く時間、寒天の固さなど、すべてにおいて一から勉強して、今の味になるまでに2年近くかかりました。

━━お茶のことが学べる教室も定期的に開催されていますが、なぜ教室を始めようと思ったのですか?

堀川 そもそも教室をやろうと思ったきっかけは、お店で挽き立ての抹茶を提供していた時に、お客様から「私もお茶を点てられるようになりたいけど作法が分からない」という話をされたことでした。私からすれば、作法が分からなくてもお家でお茶を点てればいいのにと思ったのですが、皆さんは作法を知らないとお茶を点てることができないと思っているのだということが分かったんですね。
そこで、作法は置いておいて自分でお茶を点てて楽しんでもらうところから始めようと思いました。まさに「茶を楽しむ=茶楽(さらく)」です。私としては入口を広くするために、まずは自分でお茶を点て楽しさや味を知ってもらうこと。そのうえで、もっと深堀したい人は作法も学んでもらえればいいと思っています。実際、お教室を受けてくださって、流派はどこでもいいからということで、私とは違う流派の門をくぐった方も何人かいらっしゃいます。

正式なお茶会をカジュアルな形で楽しんでもらう場を提供したい

━━「茶楽かぐや」に来られたお客様に、どのようなことを伝えたいですか?

堀川 せっかく日本人に生まれてきたのですから、自国の飲み物のことは分かってほしいです。お茶は、日本に昔からあるものですし、イズムとして残していくものだと思っています。理想としては、本物のお茶のことを知ってもらい、お家でも急須を使ってお茶を飲んでいただきたいですね。

━━今後の目標を教えてください。

堀川 ご自身でお茶を入れて飲んでいただくことに関しては、お客様には満足して頂いていると思っています。ただ、お茶はとても奥が深いものですので、もっと興味を持っていただいて深堀してほしいと思っています。私は裏千家なので、泡を立てるお茶を教えさせてもらっていますが、もう一つ濃茶というものもあるので、そちらも体験していただきたいと思っています。
また、皆さんの中には、お茶会はお茶と和菓子を頂くものと思っている方が多いですが、正式なお茶会とは懐石料理を食べて濃茶を飲んで薄茶を飲むことが一連の流れです。そこも私なりにカジュアルな形にして、皆さんに体験してもらいたいということが今の夢です。

茶楽かぐや 福井店
福井市大東2-1-131
営業時間/11:00~18:00 (LO17:20)
定休日/月・火曜日
TEL/0776-50-0315

茶楽かぐや 西武店
福井市中央1-8-1 3階
営業時間/10:00~18:30 (LO18:00)
定休日/西武福井店に準ずる
TEL/0776-97-9866

茶楽かぐや
あわら温泉美松店
福井県あわら市舟津26-10あわら温泉美松内
営業時間/10:00~17:30 (LO17:00)
定休日/不定休
TEL/0776-77-2600

HP:https://saraku-kaguya.net/